西暦3019年。
超々長距離移民船団「マクロス・スバル」の船立中央博物館にて。
エミ「なにこれ?」
イヤフォンを片方の耳にあててなにかを聴いていた学芸員の女性がつぶやいた。
サキ「どうしたの、エミちゃん?」
隣で本や音楽資料の作業をしていた後輩の女性が聞いた。
エミと呼ばれた女性はイヤフォンを外して答えた。「『生き残りたい~♪』って歌あるよね?」
「えー!もちろん知ってるよ。わたしたちスバル船団の国家『ライオン』でしょう」と驚くサキ。プレーヤーからCDと呼ばれる太古の音楽資料を取り出したエミは、7色に輝く円盤を裏にしたり表にしたりしながら続けた。
「うん。今から960年前、西暦2059年、のちにスバル船団の母体となる移民船団『マクロス・フロンティア』での建国の物語よね。でも、この『ライオン』の入ったディスクは、2009年に発売されているの…」
「えっ?どういうこと?」サキは眉をひそめた。
「西暦1999年に、地球人類は初めて異星文明ゼントラーディとして接触して、地球統合政府を樹立するよね」
「うん、歴史の授業でみんな習うわ。そして2009年に、マクロスが初めて宇宙へ出発する。そこで巨人族のゼントラーディとの戦い『第一次星間戦争』が始まる、これは教科書にのっている常識よね」とサキは笑う。
エミがうなずいて、机にあった教科書をペラペラめくる。「西暦2012年には、ゼントラーディと和解した人類が、第一次超長距離移民船団『メガロード01』が送り出される。その後も多くの船団が銀河の各地へ向かって出発して、そして、西暦2059年…」
「マクロス・ギャラクシー船団から『銀河の妖精』と呼ばれるシェリル・ノームがマクロス・フロンティアに公演のためにやってくるのよね。わたし、シェリルの歌好きだから、そこは知っているわ」とサキは身を乗り出す。
「ところが、この物語は創作された神話だった可能性がこの資料群が物語っているの」と、エミはサキの耳にそっと囁いた。
「えっーつ?!私たちの建国物語がっ?で、でも、実際にわたしたちはこうして宇宙を移民として旅しているよね?」
腕を組んだエミは少し考えてから口を開いた。「実は、1999年以前の古代文明にも、建国物語が創作の神話だったというケースはよくあるの。私が研究の専門としているニホンなどでも」
「そっか。でも、今、宇宙を旅する私たちは実在するよね。歌に励まされて」。窓の外に広がる星がまたたく宇宙空間を不安そうに見るサキ。
エミは大きくうなずいて、その肩にそっと手をおいた。「うん。歌のちからはすごいわ。それは間違いない。歌のちからに背中を押されて、私達の先祖が宇宙を目指したのかもしれない」
サキの目は不安と好奇心で少しうるんでいる。
「サキちゃん。そこで博物館長秘書のあなたにお願いがあるの」
「へっ?」
「この資料、全部『TOP SECRET』って印がついているでしょ」
「うん、まさか…」
「そう、この資料を内緒に調べるから、うまく隠しておいて」
「えーーーーっ」
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